今さら聞けない肉の常識

最終回
〈放射線照射の安全性〉 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学研究室

 海外情報によりますと,アメリカの食品医薬品局は昨年12月殺菌を目的として少量の放射線照射をした牛肉,ラム肉,豚肉の販売を許可しました。3年越しの懸案に終止符を打ったわけですが,それに伴い農務省食品安全検査局は「表示義務」の規定を設定するということです。
 アメリカでは,ブロイラー,ターキー等の家禽類や各種果物・野菜類等の放射線処理が認められており,照射済みの表示をした上で流通販売されています。今回の追加決定について,食品医薬品局は3年間の研究調査の結果,「照射した製品の味覚が損じたり,外観が変化することがなく,消費者にとっても安全である」としています。国連の世界保健機関(WHO)でも安全性には問題がないとの見解を示しています。アメリカでは,腸管出血性大腸菌0157の汚染事件が起きたことが,急に放射線照射を求める声が強まった一因になったようです。
 日本においては,食品衛生法に食品一般の製造加工および調理基準として「食品を製造し又は加工する場合は,食品に放射線を放射してはならない」とあり,現在例外として缶容器のチェック等のためとじゃがいもの発芽防止の2例のみに限って照射を認めています。
 厚生省乳肉衛生課は「食品への放射線照射によって食品が変化しないなど,科学的な検証による安全性がはっきりしておらず保証できない」として,日本国内での食肉照射のみならず,外国からの照射済み食肉の輸入は認められないとしていますが,果たして完全に照射肉の輸入をストッブできるでしょうか。世界で食品照射を実用化している国は27カ国以上といわれ,果物類,野菜類,穀物類,魚類,肉類,香辛料類など数多くの照射食品が加工用・業務用(給食・外食産業向け)として売られているのです。肉に関係するものとしては,アメリカの家禽肉・畜肉,フランスの食鳥,タイの発酵豚肉ソーセージ「ナム」等があります。
 食品照射の主な理由は,害虫汚染,微生物汚染,腐敗による食品の損傷,食品由来の疾病に対する不安,食品貿易の拡大による品質と検疫に関わる厳しい輸入基準の適合等,食品を安全に処理流通させるためなのですが,食する人間にとってはいろいろな不安材料があります。
 それは照射食品の安全性です。化学的・栄養学的・微生物学的・遺伝学的なこと等とともに照射食品の判定,照射量と種類を判断する検査方法がなく,表示のみで相手を信頼しなけれぱならないのです。安全性についても,どんな実験をして,どのように安全なのかは公表されておらず,不安材料のひとつになっています。
 現在使用されている放射線は,大部分がコパルト60(ほかにセシウム137がある)で,10キログレイ(KGy)までナ卒らどのような食品に対しても安全で,食品が放射能を蓄積することはないといわれています。KGyは放射線吸収線量の単位で,10KGyの放射線を1gの水に照射すると2.4℃上昇します。当教室でも30年ほど前,平野(現名誉教授)を中心に数年間,照射肉とソーセージの実験をしましたが,諸事情から結論を出さずに中断してしまいました。
 近年,羊スクレピー病,狂牛病,口蹄疫,食鳥インフルエンザ,0157等世界各地で問題が起こり,日本の食肉業界も厳しい状況になってきています。われわれの子孫が健康な身体で暮らせるよう努力したいものです。
 5年間にわたり連載しましたが.今回で終了します。長い間ご愛読いただきありがとうございました。   (鏡晃)
 参考図書:食品照射・科学技術町,ミートジャーナル1998.1。