今さら聞けない肉の常識

第57回
<肉製品製造時のスパイスの安全性〉 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 発色剤や保存割として肉製品に添加される亜硝酸が食品成分中のアミン頬と反応して生成するニトロソアミン類が発ガン物質あるいは変異原性物質を生成することがあることはよく知られているところですが,亜硝酸との反応生成物にはニトロソアミン類の他にもいろいろあり,新しいところではスパイスとの反応により生成するC−ニトロ系変異原というものがあります。
 スパイスは肉製品の発色剤や保存剤として添加された亜硝酸と共存する可能性が高いものです。コショウ,ナツメグ,ローレル,タイム,セージ等の一般的なスパイスと亜硝酸を反応させ,反応生成物についてエームステストを行った結果が下図。これから分かることは,スパイスの中でも使用量が多く辛味作用をもつコショウはサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)のTA1OO,TA98株に対し代謝活性化なしで変異原性を示すことです。いわゆる直接変異原を生成する前駆物質が含まれていることが推定されています。
 コショウには辛味成分としてピペリンが含まれていますが,このピペリンが変異原性発現の本体と考えられます。ピペリンと亜硝酸を反応させるとコショウの場合と全く同様にピペリン酸部分が亜硝酸との反応によりC−ニトロ,ニトロソ化を受けて新しい変異原物質,6−ニトロピペロナールが生成します(下式)。
 またピベリンの変異原性活性発現のために必要なジェノイック酸は,食品保存剤として広く用いられているソルビン酸にも共通で,ソルビン酸と亜硝酸を反応させると強力な変異原物質1・4ジニトロ−2−メチルピロナールが生成します。このようにC−ニトロ系変異原が食品成分間反応で生成することが推定されています。
 こうした亜硝酸との反応により生成する変異原性物質に変わりうる前駆体は,日常食品中にも存在することが明らかにされています。
 亜硝酸との反応により生じる変異原性に対する生成抑制因子としてビタミンCがあります。ビタミンCは亜硝酸と共存すると,アスコルビン酸自身はデヒドロアスコルビン酸になると同時に亜硝酸を還元分解して,ニトロ,ニトロソ化を阻害します。ベーコンなどの肉製品への亜硝酸添加の際に,同時にビタミンCを添加してニトロソアミン生成の抑制が期待でき,さらにヒトの体内におけるニトロソ化合物の生成も抑制することが証明されています。ビタミンEにも同様の働きが認められています。
 参考図書:食品機能化学,中村良ら共著,三共出版。(平野正男)
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