今さら聞けない肉の常識

第56回
<すき焼きにこんにゃくが入るとき> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 すき焼きなべの牛肉の近くにこんにゃくやしらたきをおくと牛肉が硬くなり,肉色も悪くなるので,こんにゃくやしらたきは肉をだいたい食べたあとの汁で煮て食べるほうがよいといわれています)。
 この現象はこんにゃくやしらたきなどのような性質によるものなのでしょうか。 こんにゃくはサトイモ科に属し,塊茎には多数の大型異型細胞があって,その中に含まれるコンニャク粒子をコンニャクマンナンといいます。コンニャクマンナンはグルコースとマンノースが直鎖状に結びついたグルコマンナンとよばれ,水を吸収すると大きく膨潤して容積を増し,粘度の高いコロイド状を呈します。
 このコロイド溶液に石灰水などのアルカリを加えて加熱すると凝固して食用こんにゃくになります。
 またしらたきはこんにゃくを石灰水溶液中に射出したものです 2)。
 従ってこんにゃくやしらたきは,料理のときに水軟化カルシウムCa(OH)2が少し溶け出して周囲をアルカリ性にする可能性があります。これは溶け出した水酸化カルシウムがCa2+とOH-に解離するためです。
 牛肉を加熱したときの柔らかさの変化をみますと,筋原線維タンパク質が熱変性する50〜65℃では肉の組織がこわれ,まだ凝固しない筋形質タンパク質が浸出してくるため,うま味がでてきます。
 このときすでに部分的には収縮が始まっていますが,肉が最も柔らかい温度帯といえます。弾力ある独特の歯ざわりになります。
 この時期を過ぎたり,このときにこんにゃくなどのカルシウムを溶出する材料が共存すると,収縮が加速され牛肉が硬くなるといわれています。
 肉色の変化については,本シリーズ1,2,3(1993年6月号,7月号,8月号)を参照していただくとよいのですが,牛肉の肉色はミオグロビンという肉色素タンパク質に負うところが大きく,と畜直後のミオグロビンはヘム色素に含まれる鉄が還元型でFe2+として存在し,紫がかった赤色をしています。
 これが空気中の酸素と結びついてオキシミオグロピン(Fe2+)となり鮮赤色になります。さらに酸素にさらしておくと酸化されてFe2+からFe3+になり,褐色のメトミオグロビンに変わります。
 加熱するとヘム色素の酸化(Fe3+)と同時に,ミオグロビンのタンパク質部分であるグロビンが変性し褐色になります。この状態の色素を変性グロビンへミクロム(Fe3+)とよぴます。
 このときこんにゃくやしらたきが共存していると,これらから溶け出す水酸化カルシウム(Ca(OH)2)がCa2+とOH-に解離してアルカリ性を呈しますので,肉色素の中心にある鉄の6番目の手(本シリーズ3参照)はOH-が結合した形をとり,ミオグロビン(Fe3+)・OH-になります。
 このようにメト型ミオグロビンは酸性水溶液では鉄の6番目の手にH2Oを結合してミオグロビン(Fe3+)・H2Oですが,アルカリ性水溶彼中では上述のようにミオグロビン(Fe3+)・OH-となり,酸アルカリ平衡なのです。
 こんなわけですき焼きや肉じゃが,肉どうふなど,牛肉料理にこんにゃくを使うときは両者を離しておいたはうがよさそうです。
参考図書
1)調理と理論,山崎清子,島田キミエ 東京,同文書院
2)食物繊維,印南敏,桐山修八編 第一出版KK
 (平野正夫)

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