今さら聞けない肉の常識

第55回
<肉を柔らかくする砂糖> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 木枯らしの冷たさが身に染むこの頃,すき炊きが恋しい季節になりました。「調理と理論」1)という書を開いてみますと,すき焼きとは,柔らかい肉を炒め焼きにして肉と脂肪の混然とした風味を味わう調理であると述べています。
 調理法の一例としては,なべをよく熱し,脂身を溶かし,ネギを入れてよく炒める。肉をひと切れずつ広げて入れ,ネギとともに炒める。その上に砂糖をふり入れて溶けたら生しいたけ,春菊を入れて醤油を入れ云々……とあります。
 牛肉のタンパク質は60〜65℃で熱変位を起こし,変色してきます。この頃が柔らかくておいしいときで,これ以上長く煮ると肉は収縮して堅くなってしまいます。この時,肉に砂糖がからまると肉を柔らかくし,肉の旨味が逃げないので,肉をおいしく食べることができるといわれています。
 砂糖が入るとなぜ肉を柔らかく,しかも旨味を逃がさずに食べることができるめか考えてみましょう。それにはまず砂糖とはどういう性質のものかを知る必要があります。
 砂糖(蔗糖)は図に示すように1分子のグルコースと1分子のフラクトースが結合した二糖類です。糖が環状構造をとるために生じた−OH基は他の炭素原子に結合した−OH基よりも反応性に富む性質をもちます。
 このようにして砂糖はその分子内に多数の反応性に富む−OH基をもつため,肉のタンパク質の一NH2基,−COOH基,チロシンの−OH基,ヒスチジンのイミダゾール基,アルギニンのグアニジン基などの極性基と水素結合をします。このためタンパク質の立体構造が加熱によって開裂することを阻止し,高次立体構造に関与する一SH基の出現を抑え肉タンバタ貫が凝固するのを遅らせることができると考えられます。従って肉の調理に際しての砂糖添加は,柔らかく,旨味を残した肉を期待できます。
 また砂糖は水に溶けやすく,砂糖に水を加えると水の分子運動によって砂糖は小さい分子に分離します。温度が上がるほど分子運動は盛んになり,砂糖は早く,多く溶けるようになります。20℃では100gの水に砂糖は203g溶解し,100℃では487gを溶解することができます。
 このように砂糖は親水牲物質ですから水分をひきつけでおく性質があります。従って,調理の際に多量に使用すると肉の水分を取ってしまうため肉は堅くなります。  砂糖のこのような性質は蔗糖(シュクロース)によるものですから,砂糖の利用効率を高めるためには純度の古い庶糖を使用することがよく,表に示しますように車糖よりもザラメ糖の方が効果的といえます。

参考図書
 1)調理と理論,山崎清子,田島キミエ 東京 同文書院
         (平野正男)
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