今さら聞けない肉の常識

第54回
<豚肉のおいしさと脂肪>   日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 本誌6月号に「サシが一般豚の2倍一霜降り状のおいしい豚肉を開発」という記事が出ていましたが、いよいよこの10月から出荷が始まったようです。
 この豚肉は東京都青梅市にある東京都畜産試験場が開発したものです。味の良い中国産の北京黒豚、肉質がよく一般に黒豚と呼ばれているイギリス産バークシャー、発育が早く筋肉内に脂肪が入りやすいデュロックの3品種を基礎豚として5世代にわたり交配を繰り返した系統造成豚。選抜形質として従来の生産形質のほか筋肉内脂肪交雑率(いわゆるサシ)を導入したこと、また最良線型不偏予測(BLUP)法を用いた点が大きな特徴です。このBLUP法はコンピュータを活用して、血統情報を環境による豚の発育の変化を補正、より正確な遺伝能力を推計することができるメリットがあります。開発開始から8年後の今年7月に新しい系統豚と認定され、「TOKYO X」と名付けられています。
 「TOKYO X」の脂肪は、通常の豚赤肉に含まれている2%の2倍以上の4.5%と和牛の霜降りにも似た状態で、肉質は柔らかいそうです。豚の場合は脂肪交雑が出来にくいというのが定説でしたので、まったく新しい“品種”といえるでしょう。
 私たちが日頃食べている食肉は、運動エネルギーをたくさん貯えている骨格筋(横紋筋、髄意筋ともいう)で、筋周膜より内部にはあまり脂肪沈着がありません。しかし、霜降りと呼ばれる肉は筋束の直径が小さく、筋繊維を束ねている筋周筋も薄く、その上脂肪繊が筋内膜、筋繊維間まで分散し存在している、すなわち脂肪交雑(サシ)の状態が良好で肉質のキメが細かいと呼ばれていることなのです。
 和牛の場合は脂肪交雑による肉質の柔らかさ、脂肪由来のこくと風味以外に和牛特有のフレーバーがおいしさを誘うひとつの要因でしょう。一方豚肉の場合は、豚特有のフレーバーがあって不快感を示す人が少なくないのも事実です(あるデータによると、豚の特有臭を感じるのは女性が多いようです)。
 「TOKYO X」を試食した人の話ですと、思っていたよりも豚肉の臭いがなく、脂も重くなく、あっさりとした舌ざわりで、柔らかい豚肉だったそうです。脂肪の溶ける温度は食べた時の舌ざわりと深い関係があります。牛脂の溶ける温度が40〜50℃に対し、豚脂は33〜46℃と人の体温に近い温度となっています。このため豚肉の方が舌ざわりが良いのですが、とくにXの場合は柔らかい肉質を活かした冷しゃぶにすれば最高ではないでしょうか。機会があれば一度試食してみたいものです。
 肉のおいしさ、柔らかさを引き立ててくれる脂肪ですが、病気や肥満の原因として悪者扱いにされがちです。脂肪は効率の良いエネルギー源で、とくに豚の脂肪酸中の80〜90%はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が占めており、人には大切な成分の1つなのです。むしろ問題なのは、脂肪よりもカロリーの過剰摂取にあるのではないでしょうか。色々な食べ物をバランス良く摂取してこそ健康的な生活ができるのです。 (鏡晃)
1997.11

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