今さら聞けない肉の常識

第53回
<腸管出血性大腸菌とは?> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 昨年,日本各地で猛威をふるった腸管出血性大腸菌O157は一時下火になったように思われましたが,今年になってからも300人近くの食中毒患者が発生しています。新聞報道によると,アメリカでもハドソン・フーズ社のハンバーガ一用冷凍挽き肉がO157の感染源と断定され,約1万2000tのひき肉が回収されました。なお,同社の牛肉製品は日本へは輸出されていません。
 動物(牛)等の腸内にいる大腸菌は,細菌分類学上,腸内細菌科エッシェリッヒア属で動物の腸内細菌叢を形成する細菌です。大腸菌の一部の種は,乳幼児の下痢症等病原性大腸菌の原因菌として認められています。この中で腸管出血性大腸菌は,この菌のデオキシリボ核酸(DNA)に,細菌にとりつくウイルスの毒素遺伝子が入り,毒素を出す能力をもつようになった大腸菌が腸管出血性大腸菌O157で,1980年アメリカの学者によって解明されています。
 しばしば人間を死に至らしめる溶血性尿毒症症候群は,このO157が出すベロ毒素という物質が原因です。ベロ毒素にはVTl,VT2の2種類があり,両方関係するタイプと片方だけのタイプの3タイプがありますが,発生メカニズムについては解明されていないところがあります。
 なお,食肉会社等において大腸菌群の検査が実施されていますが,大腸菌群が食品中に存在するということは,その出所をともにする消化器系伝染病原菌や食中毒菌で汚染されている可能性があるため,それら病原細菌汚染の指標としての意味を含めて検査を行っているわけです。
 外国におけるO157による集団感染は,WHO(世界保健機構)の調査によると,1984年アメリカの老人ホームで牛ひき肉が原因で感染者34人中死亡者4人が出たのが初めてのようです。以後,カナダ,イギリス,南アメリカ,イタリア,オーストラリア等各国で集団感染が発生しています。
 特定された感染原因は,牛ひき肉,水道水,鶏肉,サンドウィッチ,ヨーグルト,サラミ,りんごジュース,サラダ,プールの水,人的接触など多種多様ですが,アメリカでは半数近くが牛肉関係となっています。
 日本におけるO157集団感染は,国立予防衛生研究所によると,1990年9月浦和市の幼稚園での発生が初事例です。当初は,腹痛,下痢,発熱の症状から単なる食中毒と思われたのですが,飲料用井戸水から腸管出血性大腸菌が検出され,初めてO157という言葉がマスコミに登場しています。
 この時は園児,家族等236人が感染し,一園児2人が死亡しました。以降,1995年までは6件(死亡4人)だったのですが,1996年は16件,1万人近くの感染(うち死亡9人)となりました。このうち61%が大阪・堺市,24%が岡山県邑久町,残り15%が全国に散発で発生しています。堺市,邑久町とも学校給食によるものと推定されましたが,感染原因は特定できなかったのは記憶に新しいところです。昨年の発生状況は,世界的に例をみないケタ違いの記録的なものとWHOでもみています。
 0157の菌検出事例では牛レバー,牛枝肉,センマイ等から,また生和菓子から検出されたとの報告もあります。0157は菌数が少なくても感染しますし,潜伏期間が4〜9日と一般の食中寺菌よりかなり良いため,感染源の特定が難しいのです。従って,常日頃から食肉を取り扱うものは手指,機械,器具等はよく殺菌・洗浄することが重要です。O157は75℃,1分で死滅しますので,調理に際しては十分に加熱するよう,消費者にもアドバイスすることをお勧めします。      (鏡 晃)
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