今さら聞けない肉の常識

第52回
<ソーセージ原料にむく肉> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 最近,若い主婦の間でソーセージづくりが流行しているようです。豚ミンチ肉を材料に,食塩,砂糖,各種香辛料等のほかは添加物を使用しないで作る,文字通りの手づくりのものです。親しい友人らのグループで,羊腸に詰めた生ソーセージをボイルしたり,鉄板焼きにしたりで楽しんでいるようです。
 先日,九州のある主婦の方から電話がありました。話の内容は,ある食肉店から購入した豚肉でソーセージを作ると弾力性があり,プリンプリンしたジューシィなものができるのに.別の食肉店の肉を使うとボゾポソしたまとまりのないソーセージになってしまう。同じ豚肉を普通の料理に使うと軟らかくおいしいのですが,どうしてでしょうか―というものでした。
 私達が食べている食肉の約75%は水分,約20%は筋肉タンパク質,残り5%が脂質,炭水化物類,ビタミン類,その他からできています。筋肉タンパク質の約60%は塩溶性の筋原線維で,そのほか筋漿,結合織等で構成されていますが,その塩溶性の筋原線維の中の約70%が収縮タンパク質といわれるアクチンとミオシンが占めています。
 と畜直後の生肉には,ATP(アデノシン3リン酸)がありますので,アクチンとミオシンは結合しないで別々となっており,遊離のミオシンが多く存在しています。しかし,時間とともにATPが少なくなるとミオシンとアクチンが結び付き,アクトミオシンという形になり,ミオシンが少なくなってきます。このミオシンが肉の結着性や保水性に大変重要な役割をし,塩漬時に筋原線維からのミオシンのみならず,細胞外に溶出したアクトミオシンによって肉に粘り気を出しているのです。
 一方,肉の流通は,と畜場で解体処理後,部分肉にカットされパーツごとに箱詰めされ,一般的には次の各方法で保存・運搬され,食肉店・食肉売場に運ばれます。そして整形スライスされ,4℃前後のショーケース内でお客さんを待ちます。
 冷蔵(−1〜5℃,0℃±1℃のチルドを含む)の状態で保管・輸送した肉は,乾燥,目減り,変色,低温細菌繁殖等の変性が起こりやすいので,保存をあまり要しない短期間向きです。冷蔵のうち0℃前後のチルド状態は,肉の化学的変性であるタンパク質(ミオシン)の凍結変性は起こりにくく,保存には大変良いのですが,温度調節がむつかしく,温度管理には細心の注意が必要です。
 半凍結(半冷凍,−2℃〜−3℃)の肉は,冷蔵より各種変性は遅れて出てきますが,タンパク質(ミオシン)の凍結変性が最も速く進行する温度帯であるため,結着性がなくなり,また赤色肉の褐変が進行しやすい欠点があります。
 凍結(冷蔵,一18℃以下,実際は−30℃以下)状態での肉の保管は,いろいろな変性の進行を阻止するためには有効なのですが,最大氷結晶生成帯(−1℃〜−5℃)の通過時間によって以後の保存状態と解凍後の品質に影響が出てきます。すなわち,急速に凍結し,解凍も素早く行うことが大切になります。 凍結肉は比較的長時間の保存が可能ですが,冷凍保存中に肉色の褐変,乾燥,凍結やけ,脂肪の変質等が起こり,また解凍では香味抜け,タンパク質(ミオシン)の凍結変性,ドリップの発生,肉質の粗荒化などがみられます。
 こうしたことから結着性を重視するソーセージづくりには,0〜4℃で輸送・保管した冷蔵肉を使うのが最良といえます。しかも脂肪の酸化の面から,使う直前にミンチにした方がよいでしょう。なお,結着剤として各種リン酸塩が使われていますが,働きはATPと同じです。
 参考文歓:食肉の低温管理(食品流通システム協会),食肉・肉製品の科学(学窓社)。(鏡晃)
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