今さら聞けない肉の常識

第44回
く仔牛肉の肉学的特性> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 丑年の幕明けにちなんで、牛肉の話題を選びました。多くの日本人にとって,良い牛肉とは霜降り肉とか,ステーキとして旨いサーロインやテンダーロインなどであって,仔牛の肉をそれほどご馳走と思う人は多くありません。日本の牛肉は,乳牛の雄を肥育した若い牛が多く,成年のようにはコクがないので仔牛はもっとコクがないと考えるためでしょうか。
 しかし,仔牛肉は柔らかく,くせがなく,肉自体に旨味があるためクリーム系,トマト系,褐色系ソースなどほとんどのソースに合います。そのため,最近では高級感のある食材として利用されるようになっています。 フランス料理における良い仔牛肉は,肉色はつやがあってホワイトで,うすいうすいピンク色,肉質はきめ細かく,非常に柔らかで,よく縮まっているものがよいとされます。しかも,ふくよかで、食べるとふわっとしているものがよいのです。
 このような肉はホワイト・ヴィールと呼ばれ,ミルクだけをあたえ,特殊な肥育舎で注意深く育てられます。このホワイト・ヴィールを含めて仔牛肉は,飼料,飼育期間,飼育方法などの違いから3種類に分類されます。
 いずれにしても若齢という点では同じですので,これら仔牛肉と成牛を比較してみますと,仔牛肉特有の性質がみえてきます。下表は牛の胸最長筋の年齢による組成の違いを成分の百分率で現わしたものです。仔牛肉の筋肉内脂肪とミオグロビン(肉色素)含有率が非常に低いことが分かります。ミオグロビンは24カ月齢まで急激に増加し,筋肉内脂肪は40カ月齢まで増加します。このことが4〜5カ月で用いられる仔件肉の淡泊な味とごくうすいピンク色の肉色につながります。
 筋原線維と筋漿の窒素含有率は,成牛よりもやや少なめですが,高タンパク質であることに間違いありません。多くの成分が加齢とともに含有量を増やす中で,水分と基質の窒素は逆に少なくなっています。
 水分含有率の多い仔牛肉の方が成年肉よりも柔らかいことは理解できますが,食肉の硬さを決めている要因の1つである基質(膜などの結合織)が,仔牛肉に高い割合で含まれていることは理解に苦しむところではないでしょうか。
 これは仔牛肉の柔らかさと成牛の肉の硬さは,結合織の性質が年齢によって異なるためなのです。仔牛肉の結合織は塩に溶けるコラーゲン(塩不溶性のものの前駆体)の割合が多いレティキュリンを多く含んでいるため,食肉の硬さには関与しません。従って基質含有率が高いのにもかかわらず仔牛肉は柔らかいのです。
 加齢に伴って不溶性のコラーゲンとなり,さらにコラーゲン線維は分子同士で結合(架橋結合)をつくり,丈夫な線維になるので,成牛肉は硬くなり,架橋結合が増えるため,老齢牛はさらに硬くなります。
         (平野正男)
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