今さら聞けない肉の常識

第42回
くなぜ炭火焼がおいしいか> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 炭火で焼肉をすると,炭火から遠赤外線が出ておいしく焼き上がる−といわれますが,本当なのでしょうか。
 遠赤外線とは熱線と呼ばれる赤外線の中で一番波長の良い電磁波の一種です。空気の媒体を必要とせず,直接,物に放射されるので表面のほか放射を吸収した内部からも加熱されます。このため,加熱効果が大変良く,色,香り,風味が損なわれにくく,また加熱速度も早いのが特徴です。手近な熱源で遠赤外線を多く放射するのは炭火です。
 これに対し他の熱源の場合は,空気による伝導,対流により物表面に熱が届き,表面から内部に伝導するため,効果,加熱速度が遅くなります。
 炭には大別して黒炭と白炭とがあります。黒炭は茶の湯等に用いられ,炭本体は軽く軟らかく暖かい感じで,通電性がなく,燃焼時間が短い特性があります。一方,白炭は主に料理等に用いられ,重く,堅く,冷たい感じで,叩くとかん高い音が出ます。炭素化の度合が高いため通電性があり,長時間燃え,火力が強い性質をもっています。ウバメガシの木を用いた備良長がとくに有名で,炭の出来上がりは原木に比べ長さが2分の1,太さが10分の1に縮小し密度が高くなっています。
 肉のおいしさの条件は,味,香り,歯ざわり,色,汁気等ですが,そのうち味は,甘味(主に単糖),塩味(カルシウムイオン・塩素イオン),酸味(乳酸),苦味(疎水性アミノ酸),旨味(グルタミン酸ナトリウム)の基本味からなっています。旨味は1908年(明治41年)池田菊苗博士が昆布から発見したものです。このグルタミン酸ナトリウムは旨味を与えるばかりでなく,酸味,塩味,苦味を緩和し,甘味といっしょになると複雑な味の「こく」を出す作用があり,一層おいしさを増します。
 加熱によってグルタミン酸の含有量がどう変化するかを調べたところ,生肉を1とするとガス火焼肉から1.8倍,炭火焼肉から2.2倍のグルタミン酸が検出されました。熱を加えると増量するのは当然ですが,同じ熱でも炭火の熱は旨味を引き出す効果が高いようです。
 炭火は遠赤外線といわれる熱線を多く放射すると述べましたが,ある実験によると,厚さ40mm前後の牛モモ肉を90秒間直火でアミ焼きした時,ガス火の場合は表面温度が85℃,肉内部が34℃になりました。一方炭火の場合は,表面81℃,内部40℃で,その時炭火が出す遠赤外線の放射量はガス火より約2.5倍多かったようです。
 炭火で肉を焼いた場合,表面とともに肉内部にも遠赤外線放射が吸収され,熱により水分がある程度蒸発,味の成分濃度が高まります。同時にタンパク変性によりしっとりとした堅さが形成されるとともに,旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムが増えてきます。ガス火の場合は空気による伝導対流によって表面から肉内部に熱が伝わりますので,表面と内部の温度差が大きくなります。またガスは燃えると水素を発生するので,水蒸気により味が薄められ,旨味や全体的なしっとりさがなくなるようで,熱によるタンパク変性が炭火とはちょっと違います。
 肉を加熱した時,約50種類の香り成分が生成されますが,炭火の方がまさっています。炭火からは1000ppm前後の一酸化炭素が放出されています。これが焼肉の味,焼け方に無関係ではないようですが.詳しいことは分かっていません。ただ,ソーセージ製造の乾燥工程において炭火から発生する一酸化炭素ガスが反応して良い効果があることは判明しています。(鏡晃)
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