今さら聞けない肉の常識

第40回
<死後硬直のパターン> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 と畜直後の筋肉は,生体の時と同様にやわらかいのですが,一定時間を経過するとだんだん伸長牲のないかたい筋肉に変化してきます。この変化の状態を死後硬直といい,筋肉の死後の変化のうちでもっとも著しい現象でしょう。死後硬直状態後,貯蔵等による時間的経過とともに硬直が解け(解硬),やわらかく(軟化)なり,熟成という状態に入ります。さらに時間の経過とともに熟成が進むと,微生物等により肉成分が分解され,腐敗といわれる現象に入ってきます。
 死後硬直の時間的経過は,動物の種類・年令・栄養状態・と畜前の取り扱いかた,と畜方法,と畜後の取り扱いかた,気温等によって大きく変わってきます。それは筋肉内で起こる生物学的反応が,グリコーゲンやクリアチンリン酸等のATP再生源の蓄積量等によるからです。
 一般的に同じ動物の場合,夏期は硬直の発生と解硬が早く,硬直時間は36時間程度ですが,冬期は硬直発生と解硬が遅く,硬直時間は夏期の約2倍になるようです。
 死後硬直のメカニズム(詳しくは本誌1994年1月号参照)はと畜によって筋肉内に酸素の供給が断たれると,ATP濃度の減少によってアクチンとミオシンが結合,アクトミオシンが作られ硬直が始まります。そして硬直完了時にはATPは消失しています。また,解糖作用による乳酸蓄積のために,PH7.0附近からpH5.5附近の酸性に低下,かたくなります。
 と畜後,比較的早い時期にクレアチンリン酸含量の急激な低下とともにATP含量が低下する時期を急速硬直期といっていますが,この時期にATPの再合成と分解がバランスを保ち筋肉の伸長性を保持している間を遅延期(硬直開始前期)といい,ATP分解が進行する初期の段階で筋肉の伸長性が急速に低下する期を急速期(硬直進行期)。そして,筋肉の伸長性が低下し,非常に低い状態で一定値を示すようになった時期を硬直期(硬直完了期)と3つの物理的変化に分けられています。
 死後硬直の過程は前に述べたように諸序の条件によって変化してきますが,下表のようなパターンに分けられています。死後硬直タイプの肉が精肉や加工原料肉として最適であることはいうまでもありません。なお,死後硬直開始時間は,諸条件により一概にはいえませんが,牛で24時間,豚で12時間,鶏で2時間程度といわれています。
 硬直の終了前に肉を凍結すると,解凍中に硬直が進行し多量のドリップ(硬直ドリップ)を流出します。悪条件によっては筋肉の長さが50%も収縮し,ドリップ量が30%も流出するといわれています。また硬直中の肉を調理すると,肉質はかたく加熱による肉汁の流出が多くなってきます。唯一結着性はと畜直後が最高で,そのため,結着性と鮮度を重要視するドイツ農家の自家製ソーセージづくりでは,体温の下がらないうちに塩漬(温塩漬法)を行っています。
 参考文歓:「食肉・内製品の科学」森田重廣監修/学窓社
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