今さら聞けない肉の常識

第37回
<肉を軟らかく調理する> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室
第37回 く肉を軟らかく調理する>
(1)食塩を添加すると軟らかくなる理由
 手に入れた肉を調理しようとする時,誰しもどうしたらおいしく食べられるかと考えることでしょう。おいしさを決めている要因はいろいろありますが,ここでは食感にかかわる軟らかさをとりあげてみます。
 肉の望ましい食感とは,適当な軟らかさ(硬さ)と脆さ(もろさ),滑らかな口ざわりおよび豊かな多汁性ということができます。
 肉の硬さは結合組織のコラーゲン線維の分子の状態と筋原線維の太いフィラメントと短いフィラメント間の結合の強さによって規定され,さらに保水性に関してはpHが大切な要因となります。そして肉の軟らかさの程度は,家畜の種類,品種,性別,筋肉の部位などによって異なります。
 さて,今回は保水性を高めて肉を軟らかく調理する方法のひとつである食塩添加について考えてみます。食塩は水溶液中でNaCl<―>Na++Cl‐のように電離し,筋原線維内に入ったNa+は,太いフィラメントと細いフィラメントのすき間で陰イオンとゆるく統合し,一方,Cl ̄は陽イオングループと結合して陽イオンをなくしていまい,静電気のバランスを保った状態にします。その結果,等電点をより酸側に移動させます(図の(a)の状態)。
 さらにCl‐はフィラメント間で陰イオンを増して,相反発する静電気力を強め,フィラメント間を広げ,筋線維をゆるめて,保水力を向上させます(膨潤化)(図の(b),(c)の状態)。
 食塩はまた両フィラメントを結合させているクロスブリッジを除き,太いフィラメントからミオシンを溶出します(筋原線維タンパク質の可溶化。この結果は,ピロリン酸の存在で増大します)。
 一般に,食用に供される肉のpHは5.5前後(図の(c)の状態)ですので,肉調理の前処理として食塩を用いることは,保水力向上および筋原線維タンパク質の可溶化の効果によって調理肉を軟らかく仕上げます。



 参考図書
1)ミートジャーナル,VOl.31,NO12,79.1994牛肉熟成のメカニズム,沖谷明紘,食肉通信社。
2)The Science of Meat and Meat Products J.F.Price and B.S Schweiggert W.H.FREE MAN AND COMPANY
          (平野正男)
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