今さら聞けない肉の常識

第32回
<ビーフ・ステーキを焼く> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室
その2 加熱による肉色の変化と香りの生成

 肉の色は主として肉色素のミオグロビンによるものですが,血色素のヘモグロビンも混じっています。ミオグロビンは,グロビン(タンパク質)とヘム色素が1:1の割合で結合したもので,ヘモグロビンはこの割合が1:4となっています。
 ミオグロビンは本来,紫赤色で,空気に触れて酸素をとり入れると,鮮赤色のオキシミオグロビンになります。これは酸化ではありません。酸化が起こりますと褐色のメトミオグロビンになります(本連載第1回参照)。
 ステーキ肉を加熱すると,肉の表面,表層では高温のためグロビンが熱変性を起こし,ヘムも酸化されて,2価鉄から3価鉄になり,70〜80℃で灰褐色になります。この場合はグロビンは熱変性を起こしていますから,メトヘモグロビンとは異なった色素でメトミオクロモーゲン(またはグロビンミオへミクロモーゲン)と呼ばれるものです。
 また,焼き肉の表面では糖とアミノ酸が関与するアミノカルポニル反応(褐変反応)も起こり,メラノイジンと呼ばれる褐色の高分子化合物(例えばしょうゆやコーヒーの色あるいはパンのこんがりした焼き色)がつくり出されていることも考えられます。ビーフ・ステーキの焼き色等と温度の関係については下表に示しました。
 加熱した肉は生肉よりも風味がよくなります。味がよくなるのは,グルタミン酸その他のアミノ酸やイノシン酸などのうま味成分を含む肉汁が口中に広がり,うま味を強く感じるからです。
 肉の香りは,生鮮香気と加熱香気に大別できます。生鮮香気は生肉のもつ香りで,牛肉のタタキ,タルタルステーキ,レアに炊いたステーキの内層部で嗅ぐことのできる香りです。加熱香気は煮たときに水中の反応で生成する肉スープ香気,100℃以上の加熱,つまり焼いたときに生成するロースト肉香気とその香りを嗅いだとき牛肉,豚肉,鶏肉などと区別できる動物種特異臭(動物種によって筋脂質の脂肪酸組成が明らかに異なることによる)に分けることができます。
 加熱調理した肉は,いろいろの揮発性成分が生成し,おいしそうな芳香が感じられるようになります。
 加熱によって生じる香気は,ベプチド,アミノ酸の分解,糖の分解,脂質の酸化,脱水,脱カルポキシル化,チアミンとリボヌクレオチドの分解,糖,アミノ酸,脂肪,硫化水素,アンモニアなどの相互作用が関与します。加熱肉に検出された揮発性化合物は1000種以上といわれ,非常に複雑なものです。
 さらに前出のアミノカルポニル反応は,褐変化と同時に焙焼香気を生じる反応でもあり,その香ばしい香りもど−フ・ステーキの香気生成の主役となっています。
 参考図:1)身近な現象の化学,PART−2,台所の化学,日本化学会編,培風館
          (平野 正男)
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