今さら聞けない肉の常識

第31回
<ビーフ・ステーキを焼く> その1 加熱による凝固・収縮と肉汁の滲出性
  日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室
本誌95年9月号の「チラリ・チクリ」欄で“短気オジサン”が「薄いステーキで焼き加減なんか聞くな」と大いに憤慨していらっしゃる。注文した焼き加減より余計に焼き上がってくると思って間違いなく、ほとんどウエルダンがでてくるというわけです。そこで、ステーキを焼いた時、肉に起こる変化について考えてみました。
 肉を加熱調理した時、焼く過程でみられるいくつかの反応、それに伴う変化、とくに色の変化、タンパク質の変化、脂肪の変化、香りの生成、焼き過ぎによる変異原性物質の生成などの変化が起こっていますが、今回は主として加熱調理した時の肉の硬化と肉汁の滲出について触れてみます。
 ステーキを焼く場合、鉄板などを使う間接加熱法と網焼きなどの直接加熱法があります。鉄板焼きの場合、油などの熱媒体の有無によって肉中の温度分布、その調整のしやすさなどが異なり、加熱肉中の成分の関与する反応の種類、反応速度、生成物などが影響を受けることになります。
 ステーキを焼く場合、その内部温度は軽く焼いたレアで60℃位、十分鏡いたウエルダンでも80℃程度ですが、表面(上側)は160℃以上にもなり、焼き方によっても異なりますが、表面(下側)など鉄板に接している部分や多少焦げている部分では200〜250℃、あるいはそれ以上の高温にさらされています。
 このようにして局所的にはかなり高温が保たれるため、短時間で一気に反応が進行することになります。この時、肉内部の水分は表面に向かって移動しますが、加熱速度が早いと肉表面の筋原線維タンパク質と筋基質タンパク質の凝固が早く、内層の収縮が少なくなるため肉中の成分を含んだ水分の移動が起こりにくくなります。そのため肉汁の滲出を少なく抑えることができるわけです。
 肉汁の滲出は肉の保水性に関係があり、pHが大きくかかわってきます。新鮮肉のpHは、筋タンパク質の等電点とほぼ同じ5.5付近ですので、生肉、調理肉いずれの場合でもこのpH域では保水性が最も低くなります。pHおよび保水力に及ぼす加熱温度の影響を図でみますと、肉のpHが等電点に近いほどまた加熱温度が高いほど肉の保水力は低下しているのが分かります。
 したがって、加熱により失われる肉汁を少なくし、肉を硬くしないためには、高温ですみやかに表面部の筋タンパク質を凝固させ、内層の加熱温度をなるべく上げないようにすれば、その保水力を高く保つこどができます。さらに肉の下処理によって肉のpHを等電点より酸側に下げるか、アルカリ側に上げておけば効果があります。
参考図書:
1)身近な現象の化学PART−2台所の化学、日本化学会編、培風蝕
2)MEAT SCIENCE,4th Edi−tion,R.A.LAWRIE,Pergamon Press     (平野正男)
1995.12 ミートジャーナル



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