今さら聞けない肉の常識

第25回
<畜肉脂肪の色とにおい> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室
 純粋の脂肪には味もにおいも色もありませんが、不純物を含んでいる天然脂肪は味、フレーバーと大いに関係があって、肉のおいしさを引き立たせてくれます。
畜肉の脂肪の色は白色、乳白色で光沢があるものがよいとされていますが、飼育過程における飼料の内容によってその色は変わっていきます。黄色色素(カロチン)の多い穀物(とうもろこし)や牧草、野菜によっても脂肪は黄色がかってきます。
牛の場合、品種によってカロチンをビタミンAへ変換するのに差があり、例えばジャージー種では脂肪の黄色味が強くでます。また一般に老齢になるとカロチンの沈着が進んできますので、脂肪は黄変しますが、食用として問題ありません。輸入牛肉で自然放牧のものは、脂肪は黄色味を帯びています。白色の牛脂と黄色の牛脂とでは風味が異なります。旨味を損う場合もあります。
畜肉のにおいに関して多くの人がすぐに思い浮かべるのは、羊肉の特異臭ではないでしょうか。このにおいは牛、豚肉のそれとは明らかに異なります。そして、これはカプリン酸、ぺラルゴン酸によるものといわれています。羊体表面の脂肪のうち炭素数10までの揮発性脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで分析しますと、下表のようになります。これまで動物油脂には見出されなかったギ酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、α−メチル酪酸がカプリル酸、ペラルゴン酸などとともに見出されています。
羊肉の特異臭の正体は炭素数の小さいカプリン酸CH3(CH2)6COOH(オクタン酸)、ペラルゴン酸CH3(CH2)7COOH(ノナン酸)という脂肪酸だったわけです。
肉の脂肪の中でリン脂質は最も不安定なものです。リン脂質は2本の脂肪酸とリン酸がグリセロールで束ねられたもので(図)、リン酸にはまだ遊んでいる手があるのでいろいろの分子と結合できます。ここにケファリンがつながったものをホスファチジル・エタノールアミン(ケファリン)といいます。脂肪酸構成は高度不飽和脂肪酸が多いためリン脂質は酸化されやすく、またケファリン部分は酵素作用によってはずされます。貯蔵中の牛肉、豚肉でリン脂質からはずれたケファリン部分は魚臭を生じます。魚臭くさいフレーバーはまた魚粉を多く与えた畜肉脂肪からも生じます。
ある種の豚肉を加熱すると不快な雄豚臭を生じます。これは雄豚肉でも雌豚肉でも同じで、この臭気は5α−アンドロスト−16−エン−3−オンによるものです。男性の44%は雄豚臭を感知できないのに対し、女性の場合感知できないのはわずか8%だったということはなかなか興味あることです。
(平野正男)
1995.6


第26回へ