今さら聞けない肉の常識

第18回
<焼くと肉が縮むのはなぜ?> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科向学教室

秋の行楽シーズン、屋外でのバーベキュー会もその楽しみの一つです。この時、誰しもが経験することは、肉が焼き網の上で踊ってしまうことではないでしょうか。箸で伸ばしたり、裏がえしたりで大忙しです。このように加熱によって肉が縮む理由について考えてみましょう。
この疑問を解くにあたって問題となるのは、食肉のタンパク質です。タンパク質は20種類のアミノ酸がつながってできたネックレスのようなもので、これをポリペプチド鎖といいます。ポリペプチド鎖はコンパクトに折りたたまれて、線維状に連なっていたり、球状にかたまったりしています。そしてこれらの立体的な構造を保たせているのは、主として弱い結合方式によるもので、結合力の弱さを数の多さで補って、安定な構造を保っています。
 タンパク質を加熱すると、ポリペプチド鎖は激しく揺れ動き、本来の立体構造を支えている弱い結合がほどけてしまいます。(図)。その結果、今まで互いにくっつき合っていた多数のネックレスの玉は、結合する相手を失ってさまようことになります。それらは、手近に寄ってくる相手と片端からでたらめにくっつきます。
 熱というエネルギーを得て、次々と別の分子とくっつき、大きな集合体を作ます。集合体内部のくっつきあった部分は、水分子の激しい衝突から保護されているので、加熱しても安定です。冷却してもその状態を保ち続けます。このようにして、タンパク質は加熱による収縮、凝固を起こします。
 食肉を加熱したとき、食肉タンパク質は30〜35℃で凝固が始まり、40〜50℃で温度上昇と共に急激にかたさが増し、保水性も急激に減少します。すなわち、加熱温度上昇と加熱時間の長さによって肉は収縮、重量は減少していきます。50〜55℃でこの変化はいったん停止し、さらに加熱を続けると、筋原線維タンパク質は収縮、凝固し、筋漿タンパク質は55〜65℃で豆腐状に凝固します。そして、いわゆる膜や腱を形作っている肉基質(結合織)タンパク質は、生肉でも強く、弾力性がありますが、加熱によって、さらに収縮してかたくなります。肉基質中のコラーゲンはとくに強い無収縮を起こし、62〜63℃で正常の3分の1に不可逆的に収縮します。
 コラーゲンには先にでてきた20種類のアミノ酸の中には入っていないヒドロキシプロリンという特別のアミノ酸が含まれています。このためコラーゲンは熱に対して安定になりますが、60℃を越えますと非常に強く収縮します。
 さて、食肉の組織別構成タンパク質の構成比を動物種によって比較すると下表のようになります。この中で肉基質タンパク質の割合は畜肉の方が鶏肉や魚肉よりも大きいことが分かります。従って焼肉など加熱によって肉が縮む割合は、魚肉、鶏肉に比べて畜肉の場合が大きくなります。とくに膜や腱を多く含む肉を焼く時に、焼き網の上での踊りが激しくなることが理解できます。

ミートジャーナル 1994.11

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