今さら聞けない肉の常識

第17回
<ポリリン酸ソーダの作用はなに?〉 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 塩漬剤に用いるポリリン酸ソーダに関する間い合わせがきていますので,その働きについて考えてみましょう。
 ポリリン酸ソーダには肉の保水力,結着力を増強する働きがあります。その仕組みがどうなっているかを考える時,まずポリリン酸ソーダの性質を知っておくと便利です。
 ポリリン酸ソーダはオルトリン酸ソーダ(Na3PO4)が重合してできたもので,塩漬によく使用されるポリリン酸ソーダには,オルトリン酸ソーダが2つ重合してできたポリリン酸ソーダ,3つ重合してできたトリポリリン酸ソーダ,4つ重合してできたテトラポリリン酸ソーダ等があります。
 これらの水溶液は,@アルカリ性を呈し,A一般に多価の陽電荷をもつため,少量の添加でイオン強度を高めることができ,Bピロリン酸ソーダはATPと同様にアクトミオシンの高塩濃度液中で作用して,アクトミオシンをアクチンとミオシンに解離させる働きがあり(右式)、Cポリリン酸ソーダはカルシウムイオンやマグネシウムイオンと結合する性質をもち,Dポリリン酸ソーダは親水性界面活性剤として働きます。
 このような化学的性質をもったポリリン酸ソーダが,肉製品の加工工程でどのような作用をするのでしょう。
 と畜直後の筋肉には、まだかなりのATPが残っていますので、ミオシンとアクチンは解離した状態にあって,塩漬時の塩濃度でミオシンは効率よく溶出されます。
 しかし,普通,加工用に用いられる原料肉は,死後硬直期を経過していますから,アクチン・ミオシン硬直複合体は堅い結合をしていることと,pHが5.4〜5.5程度に下がっているため,結着力の主役を担うミオシンの抽出量は減少し,抽出されるのはアクトミオシンの形が多くなっています。そして,保水性,結着性という観点からみましても,肉製品加工上,非常に都合の悪い状態にあります。
 このような状態の原料肉をポリリン酸ソーダを含む塩漬剤で塩漬しますと,@,Aの作用によってpHがわずかに上昇し,イオン強度も増加しますので,最近とみに進んできた低塩化によるタンパク質の抽出性の低下を補強することができます。またBの作用によってアクトミオシンが解離して,相対的にミオシン量を増加させる効果が表われます。
 トリポリリン酸は加水分解されて,ピロリン酸となって初めてアクトミオシンの解離に有効に働きます(下式の(c)式→(b)式)。従って塩漬用にトリポリリン酸ソーダを用いて,ピロリン酸ソーダは即効性がありますので,カッターでの細切混和の際に使用するとよいでしょう。また長期間の塩漬用にはピロリン酸ソーダやトリポリリン酸ソーダの供給源となる,重合度の高いポリリン酸ソーダを使用することも考えられます。
 その他にCの働きについては、肉牛ではカルシウムイオンを封鎖して、タンパク質の構造を緩めるため、保水性を高めるのに有効とみなされたこともあります。Dの親水性界面活性剤としての性質は、脂肪とタンパク質が混在する系(エマルジョン型ソーセージ)でのエマルジョンの安定化に有効と考えられます。(平野 正男)



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