今さら聞けない肉の常識

第13回
<燻煙材料の種類と特徴〉 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 サクラのチップでじっくり燻煙しました……と,あるハム会社のテレビコマーシャルがありますが,燻煙材料には桜の木以外何があるでしょうか。
 煙の出る物ならなんでも良いといって,お茶の葉、コーヒーの出がらし、南京豆の殻、クルミの殻,籾がら,トウモロコシの芯等も使われており,それなりの特色ある風味を付けていますが,良い香りの煙を出す木材が,一番使いやすいようです。
 一般的には,広葉樹が多く使われていますが,それは樹脂が少なく,堅木で徐々に燃焼し,煙がまろやかで量が多いからです。それに対し針葉樹であるマツ・スギ・ヒノキ類は樹脂が多く,香り煙がまろやかでなく刺激的であるため,できれば使わない方が良いといわれています。
 燻煙向きの木として,サクラ・ブナ・ナラ・リンゴ・クルミ・カシ・シラカバ等がありますが,香りや味覚に国民性,地域性があり,評価が運ってきます。
 ドイツではネズ・ブナ、オランダではカシ・ポプラ,デンマークではアカッゲ・トウモロコシの芯,スコットランドではボダイジュ,アメリカではヒッコリー,日本ではサクラ等が一般的に良いものとされています。
 日本で使われている燻煙材の主な種類と特徴を表にまとめてみましたが,単品で使用する以外に2〜3種類をミックスして使用した方がより良い香りと味が楽しめます。同じサクラの木でも,木の種類や保存状態によって香りが違ってきます。ハープ類やスパイス類を共に燃焼させると,また違った味と香りが楽しめます。
 燻煙材は,おが屑状,チップ状,小片木状,薪状等で使用しますが,簡易スモークハウスの場合,温度,煙の量等を一定に保つのに熟練を要します(高価ですが,自動式スモークハウスならその心配はありません)。
 現在,おが屑を固形化した燻煙材,液体の燻煙材,粉末の燻煙材等が市販されていますので大変便利ですが,物によってはコスト,風味,保存性等について少々問題があるようです。
 以前,当研究室では国の天然記念物のサクラを使って燻煙をしていました。50cm前後の丸太を乾燥しすぎないようにして保存し,使う時に樹皮を剥き,チェーンソーでチップを作り,水分含有30%程に調整して使ったのですが,香りが新鮮でした。
 というのは,東京・小金井公園沿いのサクラ並木に折れた木があったので,市役所に電話したところ,国の天然記念物の桜の木を燻煙に使うとは何事か,と怒られてしまいました。そこで、指定園芸業者が手入れをしたとき,ゴミとして処理したサクラの木を貰ってきたわけです。現在は、自動車の排気ガスにやられ,年代物の桜の木も少なくなりました。桜並木もめっきり寂しくなり,燻煙チップ向きのゴミも出てこなくなりました。



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