今さら聞けない肉の常識

第12回
<日本人は煙の匂いが嫌い?> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 日本でヨーロッパ式の燻煙方法が行われるようになったのは,明治時代になってからです。燻煙する本来の目的は,保存性を高めることですが,それに加えてスモークカラー,スモークフレーバー等の食欲をそそる特有の効果もねらっていました。
 しかし,現在は製造方法,包装方法,流通方法が進歩し,家庭内でも冷蔵庫の普及により,保存性を目的とした燻煙は重要視されず,嗜好性を目的とした、簡易的な燻煙が好まれるようになってきました。
 一般的に日本人は昔から燻煙製品を「煙くさい」といってあまり好まず,とくに本格的に作ったべ一コン類等は、ほんの一部の人々だけのものだったようです。それでは,本人は本当に煙の匂いが嫌いなのでしょうか。
 20数年前までは農村部の家には必ず「囲炉裏」がありました。「囲炉裏」は,わが国の風土が育んだ「茅葺き屋根住居」に最も適した一家団欒の場と,暖房兼コンロ兼住居保護用燻煙装置の役割をしておりました。余談になりますが,「囲炉裏」には横座といってその家の主人が座る場所,客人の座る場所,主婦,子供の座る場所と厳格に決められており、主婦の座る方に煙が流れていたのが記憶に残っています。そして,川や湖で獲ってきた魚を囲炉裏の火と煙を使って乾燥,燻煙をし自家製の保存食品を作ったのです。
 昔から作られ市販されている燻製品としては,カツオブシ,干しアワビ,ゴリ,イカ,ニシン,フグ,ウナギ,ブリ,コイなど。変わった物としてはタクアンを燻煙した「いぷりがっこ」等があります。またアイヌの人々が「ラカン」と呼んで食していた食物は。炉端で乾燥・燻煙したサーモンだったようです。
 このように,日本人はそれなりに煙を上手に利用し,生活の一部に取り入れてきましたが,地域の生活習慣によってスモークフレーバーの感じ方が少し違ってきているといわれております。主に木炭を使って生活していた中京以西から中国地方にかけての人々は,軽いフレーバーを好み,薪を使っていた関東以北と九州地方の人々は強いフレーバーを好むようです。かつてはハム工場から出荷する製品も地域に合わせて製造されていたようです。煙の中には約200種類の化合物が含まれ、互いに作用しながら効果を出していますが、メカニズムについては、一部をのぞいてあまり解明されておりません。(鏡晃)


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