今さら聞けない肉の常識

第9回
く死後硬直の肉が軟らかくなる理由> 日本獣医畜産食品工学科肉学教室

 死後硬直時の筋肉は,すべてのミオシンがアクチンと結合した硬直複合体を形成しているため非常に硬くなります。その上硬直時の筋肉はpHが最も酸性になっていて保水性が悪いため食肉としては不適当な状態にあります。煮ても焼いても食えないとはこういう状態の肉の表現にぴったりではないでしょうか。
 前回に,この硬直が生筋の収縮と違うのはATPがないために元に戻らない(弛緩状態に戻らない)という点ですと書きました。しかし,実際には,肉は一定期間を経て食用として適当な軟らかさになっていきます。この期間を熟成とよんでいますが,熟成に要する時間は,死後硬直に至るまでの時間と同様に,諸々の要因の影響を受けます。5℃に貯蔵した場合,牛肉では8〜10日,豚肉では4〜6日,鶏肉では1/2〜1日となります。
 死後硬直の筋肉が,時間の経過とともに軟化していく現象を,硬直解除とか,解硬といいます。硬直の際の筋肉の構造変化が生筋の収縮と対応して解明されているのに対して,硬直解除という現象は,生きた筋肉の収縮→弛緩に対応して理解することができません。
 死後硬直の解除が,なぜどのようにして起こるかという問題について現在多くの研究が行われていますが,まだ統一的な答えは出されていません。しかし,熟成した肉が軟らかくなるのは,筋組織がかみ砕くという物理的な力に対して抵抗性を矢い,脆弱(ぜいじゃく)になるためということが分かっています。
 軟化に直接的に関与する筋原線維構造の変化として,@筋原線維の小片化,Aアクチン・ミオシン間結合の脆弱化,Gコネクチン網目構造の脆弱化が挙げられています。@筋原線維の小片化については,図1に示したように,熟成後の筋原線維は筋節(縞模様の一単位)と筋節の連結がはずれやすくなっていることが,生化学的方法と顕微鏡像によって分かります。
 筋原線維の小片化の誘因は2つあります。1つは死後硬直時の収縮で発生する張力がZ線(図1,2参照)を断えず引張っているためその構造が脆くなることです。もう一つはCa++の作用によってZ線が脆弱化することです。
 Aアクチン・ミオシン間結合の脆弱化は図2に示したように,熟成後の筋節長はアクチン・ミオシン間の堅い結合が脆弱になることによって,死直後の筋節長と区別できないくらいに伸びています。この結合の脆弱化も小片化の場合と同様にCa++の作用によってひき起こされます。
 Bコネクチン網目構造の脆弱化もまたCa++の作用によってひき起こされます。コネクチンとは筋原線維の全長を網目構造で支え,生筋の弾力性を保持している弾性構造です。熟成した食肉では指で押してもなかなかえの形に戻らなくなっています。
 その他に筋組織内のコラーゲン線維も分子間を橋渡ししている構造が脆弱化されていることが示されていますc(平野正男)



第10回へ