今さら聞けない肉の常識

第5回
く塩による保水性と結着性> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

前回は塩による肉の貯蔵,保存性について書きましたが,今回は塩による保水性,結着性の効能について書きます。
 保水性とは,肉が細切,混合,加熟等の物理的処理を受けているあいだに,肉自身がもともと持っている水,あるいは添加された水がどれだけ保持されているかを示す能力をいいます。また,結着性とは,肉片あるいは,細切肉に水や脂肪等を加えて練り合わせた場合,それらが互いに密着する性質をいい,乳化力の強弱によって結着性の強弱が表れてきます。塩の添加によって効能が表れる保水性,結着性にはお互いに深い関係があって,それらは肉を構成している,筋肉タンパク質の中にある塩溶性の筋原線維タンパク質の働きによるものです。
 肉は約75%の水分と,約20%の筋肉タンパク質,約5%の脂質,炭水化物類,可溶性非タンパク態物質,ビタミン類等からできています。水以外,大部分がタンパク質ですので肉がタンパク食品と呼ばれるゆえんです。
 筋肉タンパク質の中で,約60%を占めているのが塩溶性の筋原線維タンパク質で,主にアクチン,ミオシン,アクトミオシンが含まれており,保水性,結着性との関係に重大な役割を演じています。次に約30%を占めているのが筋漿タンパク質で,主なものは解糖系酵素ですが,色素タンパク質であるミオグロビン,ヘモグロビン等も含まれています。残り約10%は結合織タンパク質で,コラーゲン,エラスチン,ミトコンドリア等組織の支持や結合等,肉質の硬さ等に関係しています。
 塩溶性の筋原線維タンパク質は,添加した塩の作用によってミオシンが抽出され,塩漬肉は高い粘度を帯びてきます。とくにと畜直後の肉にはATP(アデノシン3リン酸=筋肉の弛緩,収縮等を司る物質)が存在していまずので,その働きによりアクチンとミオシンは別々の状態にあって,ミオシンは効率良く抽出されてきます。しかし,時間の経過とともにアクチンとミオシンは結び付き,アクトミオシンという形で多く抽出されてくるようになり,ミオシンの抽出は少なくなってきます。抽出されたミオシンは時間の経過と共に不安定となり,また,温度に弱く約20℃以上になると変性し,結着効果が失われてしまいます。ソーセージを作るとき,保水,結着を重視する目的で,と畜直後の温かい肉を用いたり,チョッパー,カッター使用の時,肉温上昇防止のため,砕氷を添加するのも,これらの理由の一部なのです。
 抽出されたミオシンは加熱によって凝固し加熱ゲルを形成,立体的な網目様構造を形成します。さらにアクチンがミオシンと結合,アクトミオシンとなって上記網目様構造を補強し,安定化させ肉片同士を接着させ,その結果強い結着性を示します。ある報告に,ミオシンの0.6M塩溶液,pH6.0,60〜70℃加熱の時,ゲル強度が最強を示すとありますが,これはちょうどソーセージ加工のときの塩漬肉のpH,加熱温度63℃に近いものがあります。
 保水性は一般的に生肉の場合,と畜直後が最も高く,実際加工に使用される段階では比較的低く,また,加熱されますと温皮が高いほど保水性は低下してしまいます。一方塩減肉は,立体的な網目様の構造を形成しますので,その中には毛管現象によって多くの水分が保持され保水性が高くなっているのです。なお,添加物としてリン酸塩を利用しますが,これはATPと同様の働きをさせ,ミオシン抽出を良くしようとするものなのです。(鏡 晃)

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