今さら聞けない肉の常識

第3回
〈肉色の変化・新鮮な肉はなぜ暗赤色?〉 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 肉の赤い色はミオグロビンという肉色素によるということは第1回目に書きましたが,今回は肉色の変化について考えてみます。
 肉色素の分子の中で生肉の肉色に閃係するのは鉄の状態です。鉄には2価の状態とそれが酸化してできる3価の状態があります。そして肉色素の中心にある鉄には6本の手があり,そのうちの5本の手はすでにふさがってしまっていて,6番目の手に何が結合するかによって肉色素の形が決まります。普通の食肉では表に示すように3種類に変化した形の肉色素が存在し,これらが混在する割合によって肉の色調が決まります。
 新鮮肉の酸素に触れた表面の鮮赤色は6番目の手に酸素が結ぴついた酸素型肉色素のためです。この肉を切ってみると,内部の酸素の少ない部分は暗赤色 を呈していますが,これは還元型肉色素といって6番目の手があいている形によるものです。この暗赤色の肉を空気にさらすと,あいている手が酸素と結び 付き酸素型肉色素が増えて鮮赤色に変化していきます。ちょうど花が開いていくように明るい,美しい色調に変化していくので,ブルーミング(blooming)と呼ばれています。
 還元型肉色素と酸素型肉色素の鉄は共に2価ですが,さらに放置しておくと酸化が始まって肉色は褐色に変化していきます。これは酸化型肉色素の割合か増えていくためで,このとき鉄は3価となります。そして鉄の6番目の手には酸素に代って水か結ぴ付いた形となります。
 肉色を鮮赤色に保つために,6番目の手と結び付いた酸素が離れなければ酸化が起こらないと考えるかも知れませんが,肉色素の役目は貯蔵していた酸素を必要な時に筋肉細胞に渡すことですから,大事なことは,その時に簡単に酸素を手離せることなのです。自然界にはこういう弱い結合の性質をうまく利用して生物作用を営む場合が多くあります。
 食肉中で酸化型色素ができるためには,酸素分圧が関係しますから,包装方法によって肉色の劣化を防ぐことができます。また肉色素の酸化は、高温,低pH,光,脂肪酸化,食塩等によって促進されることがわかっています。従って貯蔵に際しては上のような酸化促進の原困を除くような包装,貯蔵方法を採り入れる必要があります。
 去る3月に幕張メッセで開かれたFoodexでアメリカンビーフコーナーに出品されたビタミンEビーフは長期貯蔵にも拘らず鮮かな赤色をしていましたが,これは餌として与えたビタミンEが肉中に残存して抗酸化剤として働き,肉色素の酸化型への移行を遅らせ,鮮度も良好に保持するためです。
 色調の変化では,濃い肉色の食肉ほど酸化による退色が大きいので,豚肉よりも牛肉の方がよく目立ちます。同じ現象が豚肉で起きても牛肉ほどには気付かれません。逆に,豚肉は,淡い方向への異常化は目立ちます。(平野正男)



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