今さら聞けない肉の常識

第2回
くサラブレッドのロース肉は濃い赤色〉日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 今年5月30日に行われた第60回日本ダービーでは柴田騎手の乗ったウィニングチケットが,追いすがるビワハヤヒデ,ナリタタイシンを振り切って優勝しました。売上高545億円,史上最高額といわれるすごい人気です。あの時のウィニングチケットは2400mを2分25秒5で駆け抜けたので,100m 6秒強,時速60km弱ということになります。あのように速く走れる秘密はどこにあるのでしょうか。
 走っている時のサラプレッドの背中を見ますと,非常に強く曲げられているのがわかります。つまり胸最長筋(ロース肉)が強い屈伸運動をしているわけです。そしてそのような連続的屈伸運動に耐えられるような仕組みがサラブレッドのロース肉に隠されているのです。
 サラブレッドと,走ることよりも物を引っ張ることの得意な牽引馬の口一ス肉の肉色素(ミオグロビン)量を比較してみますと,表1に示したように,サラブレッドのほうが倍近くも多くもっていることがわかります。しかし,腰筋(ヒレ)ではあまり差はありません。つまり,サラブレッドのロース肉はヒレ肉に近い赤色をしているということです。
 肉色素の役目は運動のエネルギーを得るため等の反応に必要な酸素を供給するものなのです。また普通の鳥の胸の筋肉は飛翔のために激しく用いられるので赤い色が濃いのに対して,ニワトリのようにほとんど飛ばないものでは薄いピンク色をしているのも同じ理由です。
 魚類は変温動物でエラ呼吸をして水中に溶けた酸素を取り入れていますから,水中で生活するのは不思議ではありませんが,温血動物で肺呼吸によって空気中の酸素を利用している鯨が長時間海中に潜水できるのは何故か,不思議に思ったことはありませんか。この疑問も肉色素量によって解明されます。
 魚肉とクジラ肉の肉色素量を比べてみますと,表2のようになります。マッコウクジラの肉色素量は白身肉のタイの1300倍,赤身肉のカツオの52〜75倍,ボンマグロの12〜15倍,そして牛肉や馬肉の10倍くらいと非常に大きな値を示しています。このように多量に含有する肉色素に貯えられる酸素によって長時間潜水が可能なのです。
 “クジラの潮吹き”といわれる呼気を吐いて呼吸することによって取り入れた空気中の酸索を,肉色素が十分に受け取って潜水が始まるのです。最も深くもぐることで知られているマッコウクジラで1200mもの潜水がソナーを使って確認されています。潜水時間は90分くらいといわれます。
 魚でも潮流の中を回遊しているカツオやマグロの身は赤いけれども,タイやヒラメのように岩礁や海底に定着している魚の身は白いのも,運動量の差によるものです。(平野正男)


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