今さら聞けない肉の基礎知識

第1回
<肉はなぜ赤い?> 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室

 鮮かなピンク色をした肉は,消費者の食欲をかりたてます。肉が鮮赤色を出すという現象はいったい何によるのだろうか,という疑問を抱きながら食べる人もいると思います。
 肉の色を演出するもの,つまり肉色の原因となるものは,ほとんどがミオグロビンとよばれる色素分子です。ほとんどというのは,肉の色素タンパク質にはミオグロビンの他に,ヘモグロビン,チトクローム類,カタラーゼ等がありますが,生きているときの動物の肉色はヘモグロビンという血色素の方が優勢です。しかし,と畜後の放血によって,ほとんどの血色素は放出され,食肉の状態では,ミオグロビンが肉色素の大部分を占めるようになるからです。
 そこで,肉がなぜ赤い色をしているかといいますと,肉に光があたると,ミオグロビン分子中で電子の移動がおこり,そのときにミオグロビン分子が吸収する光と補色の関係(2つを合わせると無色になるような1組の色で,カラー写真の焼きつけた色とネガフィルムの色の関係)にある光が私達に赤色として映るからです。肉が鮮かなピンク色をしているとき,その肉の色素が青緑の色の光を吸収し,その補色であるピンク色が私達に肉色として映るのです。
 ところでミオグロビンという分子はどんな構造をしているのでしょうか。図で示しますと,ポルフィリンという環状の化合物の真中に鉄原子をつかまえているものをヘムといいます。鉄原子は6本の手をもっていて,4本の手はポルフィリンとの結ぴつきに使われ,5本目の手がグロビンというタンパク質と結ぴついたものをミオグロビン(筋肉のヘモグロビンという意味)とよぴ,肉組織の中にあって酸素を貯える役目をもっています。血色素のヘモグロビンも同じような構造をしていますが,ヘモグロビンは酸素を体の各部に運搬する働きをしています。さて,6番目の手に何が結びつくかが肉色にとって問題なのです。ここに何もこないか,酸素と結びつくかあるいは水と結びつくかによって肉色に変化がおこります。(次回のおたのしみ)
 生体ではミオグロビンの鉄量は全鉄量の10%程度ですが,食肉では鉄量の80%以上がミオグロビンの鉄となります。
 肉色が動物種や年令あるいは部位によって異なるのは,ミオグロビン含量の差によるものです。動物種でミオグロビン含量を比較(胸最長筋で)してみますと,家兎0.02%,豚0.06%,羊0.25%,牛0.50%,馬0.80%,シロナガス鯨0.91%のようになり,肉色の濃い動物の方がミオグロビンを多く含むことがわかります。また年令によっても非常に変化します。例えば,子牛0.1〜0、39%,成牛0、4〜1、09%、老令牛1.6〜2.0%のように老令になる程ミオグロビン含量は増えています。部位によって色調に差があるのは,その筋肉の運動量と関係があります。よく運動する“かた”,“もも”には赤色筋が多く,これらの筋肉では酸素消費量が多いので,その供給源としてのミオグロビンを多く含んでいるため,より赤く見えるわけです。(平野正男)



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